会長あいさつ

日本木材加工技術協会 会長就任にあたって

日本木材加工技術協会 会長 信田 聡
日本木材加工技術協会 会長 信田 聡
 会員の皆様には日頃から日本木材加工技術協会の活動や運営にご協力とご尽力をいただき、誠に有り難うございます。歴史のある当協会の第15代会長に2020年6月15日に選出されました。最も高齢での会長就任です。
 ことし2020年は、新型コロナウィルス感染症が、日本はおろか世界中で感染拡大しておりパンデミックとなっている年でもあります。この感染症が、今後どのように収束してゆくかはまだ明らかには見えてこない不安と混沌の中にあるこの頃です。
 さて、前会長の服部順昭先生が前の“会長挨拶”で当協会の歴史と沿革を記しておられましたが、短い中でも大変要点をついた名文でしたので、ここで塗り替えてしまうのは大変もったいないと思いましたので、ここでも多くを引用させていただき、当協会のホームページをご覧になる方々に、当協会とはどのような協会であるのかを知っていただければと思います。
 当協会は木材関連学会の中でも産業に近い会員800件強の学術団体であり、会長は、公益財団法人日本住宅・木材技術センターなど様々な関連団体の常任理事会や理事会はもとより、木材関連の業界団体からも新年会や総会に招かれる、製材のJAS製品普及推進のための品評審査会で委員長を務め全国の木材市場で審査を行うなど、産業界との橋渡しを行っている学術団体です。
 当協会のこれまでの歩みですが、発足は任意団体「日本木材加工技術協会」として1948年(昭和23年)でした。初代の会長は東京大学農学部の三好東一先生でした。現在の東大の木材物理学研究室の教授室に写真がかけられています。ちなみにその写真の6人隔てたところに私の写真も掲げられていることになります。同じ年に北海道支部と関西支部も生まれております。また、現在の当協会誌である「木材工業」が、その年に15号までが発刊されています。「木材工業」を発行していた(財)林業経済研究所のご理解とご協力によって、その版権を譲っていただき、「木材工業」を本協会の会誌として、昭和23年4月1日の通巻16号より発行するようになりました。
 中部支部は1952年(昭和27年)に、九州支部は1961年(昭和36年)に、中国支部は1987年(昭和62年)にそれぞれ発足し、5支部からなる現在の協会のかたちができました。
 当協会には現在7部会があり、関連業界団体とタッグを組んで、活発に活動しており、部会の分野を技術的に発展させています。設立順に並べますと、1955年(昭和30年)に保存部会と合板部会、翌年に製材木工部会(後に製材・機械加工部会に改称)、1961年(昭和36年)に床板部会(後に木質仕上げ部会に改称)、1969年(昭和44年)に集成材部会、1992年(平成4年)に木質ボード部会、2006年(平成18年)に木材・プラスチック複合材部会となります。
 会員が行った研究・開発の成果を発表する場が年次大会です。1983年(昭和58年)に始まり、第7回までは全て東京の旧木材会館で開催されていましたが、1990年(平成2年)に大阪で開催の第8回を節目として、支部にお世話願ったりして東京以外での開催が盛んになってきました。第8回からの26年間で東京での開催は10回と4割ほどの比率になっています。この中には東京で開催される10年毎の協会創立記念大会が2回含まれています。2018年には協会創立70周年記念大会が実施されました。このように協会活動が全国に広がっていることは間違いありません。
 会員が行った研究・開発の成果は、年次大会での発表だけでは不十分で、学術論文として後世に残す必要があります。一方、木材産業を取り巻く様々な情報も会員に周知する必要があります。最近はインターネットの発達で、迅速に情報は得られますが、信頼性では専門家で内容を精査して発行される学術雑誌に軍配が上がります。本協会では「木材工業」、英文では"Wood Industry"という月刊誌を編集委員会が責任を持って発行しています。2020年(令和2年)には第75巻を発刊するに至っています。今年の6月に発行された第75巻6号は通算で879号になります。1000号も見え始めました。歴史を感じる数字です。
 木材産業で高品質の製品を安定して供給するには工場などでの品質管理が重要になります。管理をしっかり行うにはそのスキルを持った技術者が必要で、スキルの内容については第三者が認定する必要があります。そこで、当協会では専門家で組織する委員会を立ち上げ、(昭和40年)に「木材接着士」、次の年に「木材乾燥士」、(昭和56年)に「木材切削士」、(昭和63年)に「構造用集成材管理士」の認定を始めました。これまでに、7800名を超える「さむらい」が誕生し、技術の進歩は早いことから、その更新制度も始めました。
 木材加工・利用に関する産業技術に貢献した業績とわが国の木材産業の発展に寄与する新しい研究・技術開発の業績に対して、木材加工技術賞と市川賞を授与しており、前者は1956年(昭和31年)に後者は2002年(平成14年)にそれぞれ始まりました。市川賞は、昭和44年に(財)日本合板技術研究所がわが国の合板工業技術の発達に貢献された市川栄次郎氏の功績を記念して創設した「市川記念賞」を引継いだものです。
 木材加工・利用に関する産業技術に貢献した業績とわが国の木材産業の発展に寄与する新しい研究・技術開発の業績に対して、木材加工技術賞と市川賞を授与しており、前者は1956年(昭和31年)に後者は2002年(平成14年)にそれぞれ始まりました。市川賞は、昭和44年に(財)日本合板技術研究所がわが国の合板工業技術の発達に貢献された市川栄次郎氏の功績を記念して創設した「市川記念賞」を引継いだものです。
 当協会はこれまで一般社団法人でした。法人法が改定されたことから、慎重に審議の上、2011年(平成23年)に認可されて、公益社団法人に移行しました。これにより、協会活動は、これまでの会員へのサービスに専念して行われてきたことに加えて、公益的活動をすることとなりました。元よりめぼしい収益事業がないことから、協会の運営は厳しいものになっていきます。皆様の暖かいご支援をいただきたいと思います。
 私の木材工業に関する思いは、大企業は大企業なりの、零細企業は零細企業なりの活動が活き活きと営まれることで、木材工業全体が活性化されることを望みます。大企業が活性化されれば傘下の企業が潤うという、まずはトップランナーからという図式のみを考えてはおりません。とくに日々の生業で時間が過ぎてゆく中小企業が、技術開発や新製品を生み出して収益が向上し、活き活きと企業活動が行われることを強く望みます。そのためにも研究者や技術者が、そして当協会が果たせる役割について考えてゆきたいと思います。
 末筆になりますが、当協会は、環境負荷の少ない木材の適正な利用を推進するための加工技術に関する学術の振興と技術の向上及び普及を図ることを目的としています。今後とも皆様と一緒に考え、行動し、進んでゆきたいと思いますので、皆様のご鞭撻を宜しくお願いいたします。
 2020年6月15日記す